2017年10月に、山形市はユネスコ創造都市ネットワークに加盟認定されました。
認定の決め手は山形市の文化の多様性。市内には、音楽・演劇の分野のほか、美術、華道、茶道や伝統芸能など先人から受け継がれてきた多彩で豊かな文化があり、市民に根付いています。山形市民会館が、全国の同規模の文化施設と比較して利用率が高く、利用者が年間10万人を超えることからも、山形市の文化の多様性は、市民の皆さんの盛んな文化芸術活動が形づくっているといえます。
今号では、市民の文化芸術活動の拠点である山形市民会館が担っている役割や取り組みなどを紹介します。
▽「文化は良い時にだけ享受するぜいたく品ではない」
これは2020年のコロナ禍、ドイツ連邦政府のグリュッタース文化メディア国務大臣が述べた言葉です。感染拡大を防ぐため、発表会やコンサートなどの文化イベントの多くが中止となる中で、同国務大臣は「アーティストは今、生きるために必要不可欠な存在だ」とも述べています。
ドイツのメルケル首相も「文化的イベントは、私たちにとってこの上なく重要なものです」「私たちは(文化芸術によって)過去をよりよく理解し、また全く新しい眼差しで未来へ目を向けることもできるのです」と訴えました。
世界的に文化芸術活動の必要性が注目されています。
▽文化を産業に生かす
ユネスコは創造都市を、その都市が持つ創造性と文化による産業振興の可能性を最大限に発揮させ、文化の多様性を保持しながら持続的に発展することを目指す都市と定義しています。その都市の文化を保存や活用にとどまらず、創造性を含めて産業振興に生かすことで、その都市自体の持続的発展につなげることを目指している点が特徴です。
山形市は、ユネスコから文化の多様性と、それらを産業振興に生かすポテンシャルが評価されたともいえます。
文化を産業に生かすことは世界的な流れであり、2021年のG20文化大臣会合では、「文化は経済復興の主要なエンジンである」と宣言。日本においても、2022年に経済産業省が文化経済政策を打ち出し、「アートと経済社会について考える研究会」を設置しています。
価値観が多様化している今の時代に求められるのは創造力であり、その源泉となる文化の力が再評価されているといえます。
▽レールのない時代を生き抜くために必要な創造力
今、「レールのない時代」といわれており、自分の生きる道を自分自身で考え、選択していくことが必要です。こうした時代を生き抜くためには、知識だけでなく創造性が求められます。創造性を育むためにさまざまな考えに触れ、あらゆる面から物事を捉える多角的な視点を身に着けることが必要です。
文化芸術は、理解が難しいと感じることも多いと思いますが、難しいと感じるのは、自分とは違う視点や考えに触れているともいえます。難しいことを理解しようとすること自体が考える力を養うことにもつながり、創造力を養うのに効果的であると考えられています。
◇幸福度と文化芸術
文化庁が行った調査では、「文化芸術の直接鑑賞経験のある人や実践などの鑑賞以外の文化芸術活動を行っている人は、行っていない人と比べて幸福度が高く、人生の意義(ユーダイモニア)を頻繁に感じている」という結果が出ています。
幸福度
人生の意義(ユーダイモニア)
※出所:文化庁委託事業「令和3年度文化に関する世論調査」(分析協力:京都大学こころの未来研究センター)
【開館から50周年を迎えて】
市民会館が開館50周年を迎えられたのも、これまで市民会館を舞台に活躍されてきた方々や多くの市民の皆さまにご利用いただいたおかげであり、感謝を申し上げます。
市民会館は、開館当初から事業の方針として文化芸術の向上、地域文化振興の発展の拠点となるように取り組んできました。その当時から50年先を見据えた事業を展開しており、事業の根本である「鑑賞」「参加」「創造」は代々受け継がれて今に至ります。
私たちはこれまで、文化芸術との出会いを楽しむきっかけをつくり出す「鑑賞」事業や、市民の皆さんが自ら文化芸術活動に「参加」し、仲間と共に1つの作品を作り上げる機会を創出する事業を実施する。そして、皆さまの「創造」的な活動を支えることで、文化芸術の向上・発展に向けた種をまきながら、その輪が広がるように事業を展開してきたといえます。
また、市民会館は、市内142団体・820個人(2024年4月現在)が加入している山形市芸術文化協会の事務局も担っており、当館で開催される催しのみならず、市内各所で開催されるさまざまな分野の文化芸術活動に寄り添った支援を行っています。
山形市では、山形市芸術文化協会会員のほかにも、たくさんの方々が文化芸術に興味・関心を持ち、活動されています。市民会館という存在が、文化芸術活動を行う人・鑑賞する人それぞれにとって大きな受け皿となり、人と人とを結びつけ、多様で豊かな山形市の文化芸術活動が花開く基盤をつくっているのだと感じています。
最後に、50年の節目は、単なる通過点ではなく新しい出発点として、これまで以上に文化芸術の拠点として愛される施設を目指してまいります。
市民会館 須藤正博 館長
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